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千葉地方裁判所 昭和46年(ヨ)109号 決定

債権者

新東京国際空港公団

右代表者

今井栄文

右代理人

浜本一夫

今井文雄

真智稔

債務者

三里塚芝山連合空港反対同盟

右代表者

戸村一作

右代理人

小長井長浩

葉山岳夫

藤田一伯

近藤勝

管野泰

松崎保元

中根洋一

野島信正

大川宏

主文

債務者は債権者に対し、別紙第一物件目録記載の土地上にある別紙第二物件目録記載の物件を除去して同土地を仮に明渡せ。

債務者において右除去を行わないときは、債権者の申立てた千葉地方裁判所執行官は適当な方法でこれを除去して同土地を明渡すことができる。

申請費用は債務者の負担とする。

理由

第一当事者の申立

1、債権者は主文第一、二項同旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙「妨害物除去仮処分申請書」、「申請拡張申立書」の各理由欄記載のとおりである。

2、債務者の答弁は別紙「答弁書」記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一、(債務者の当事者適格について)

先ず債務者は、別紙第一物件目録記載の各土地(以下本件各土地ともいう。)は、別紙第二物件目録記載の各物件(以下本件各妨害物件ともいう。)につきそれぞれ定められた共有者らの占有するところで、本件債務者の占有下にはないから、本件債務者には本件仮処分申請事件についての当事者適格がない旨主張するのであるが、本件各土地の占有者が本件債務者であることは後記認定のとおりであるから、債務者の右主張はそもそも採用するを得ないものである。

二、(被保全権利の存否について)

(一)  債権者が、新東京国際空港(以下新空港という。)の設置および管理を効率的に行なうこと等により航空輸送の円滑化を図り、もつて航空の総合的な発達に資することとし、我国の国際的地位の向上に寄与することを目的として新東京国際空港公団法により設置された法人で、現に新空港建設工事を進めているものであること、しかして本件土地が新空港第一期建設事業(四千メートル滑走路およびこれに対する諸施設の建設工事)の区域内に所在し、目下工事中の四千メートル滑走路のほぼ北端に設けられる着陸帯および誘導路用地であり、昭和四四年一二月一六日土地収用法二〇条の規定により建設大臣より事業認定を受け、次いで昭和四五年一二月二八日公共用地の取得に関する特別措置法七条の規定により同大臣より特別公共事業の認定を受けた起業地であることは当事者間に争いがなく、別紙第一物件目録一の(1)、(2)の土地の地番がそれぞれ債権者の主張するように成田市駒井野字広田一〇〇〇番と同所一〇〇一番であることは本件疎明資料により一応これを認めることができる。

しかして本件疎明資料によれば、債権者が同目録一の(1)の土地を所有者野々宮太一から、(2)の土地を所有者久津勝貞から、(3)の土地を所有者本多喜一郎から、(4)の土地を所有者本多巳代治から、(5)の土地を所有者伊藤武雄から、(6)の土地を所有者本多義から、(7)の土地を所有者本多弘子から、同目録二の(1)ないし(3)の土地を所有者清宮力および田嶌なほ(共有)からそれぞれ買受けていずれもその所有権を取得したことも一応認められるところである。

(二)  そこで次に債務者が本件各土地を占有しているか否かについて判断する。

債務者が成田市三里塚、芝山町その他新空港予定地内外の住民の一部の者達により新空港の建設に絶対反対することを目的として結成された団体であることは当事者間に争いがないところ、本件疎明資料によれば現に本件各土地は債務者の構成員によつて占拠されていること、そして右地上にはこれらの者によつて本件各妨害物件が設置あるいは構築されていることがそれぞれ認められる。

ところでこの点につき債務者は本件各妨害物件は各部落毎に設置あるいは構築したもので、各物件にはそれぞれ共有者が定められ、これらの者が右物件を管理しその占有を継続しているのであるから、本件各土地もそれぞれこれらの者の占有下にある旨主張するので、その点について考えると、本件各妨害物件は債務者の構成員によつて大体部落単位で設置ないしは構築され、これに伴い本件各土地も部落単位に占拠されていること、しかして右各部落はその構成員のうちからそれぞれ三名程度を責任者として選出し、実際にはこれらの者が右各物件の管理に当つていることは本件疎明資料により一応これを認めることができないわけではないけれども、本件疎明資料によつてもこれらの者が債務者の構成員としての地位を離れて全く個人的に本件各妨害物件の管理をしているものでないことは明らかであつて、右各物件の、延いては本件土地の事実上の支配が排他的にこれらの者に帰属しているものとは認め難いから、債務者主張の事実は必ずしも本件土地が債務者の構成員により占拠されているとのさきの認定の妨げとなるものではない。

そうすると、特段の事情のない限り、本件土地の占有者は債務者自身であるということになる。

(三)  債務者は別紙第一物件目録記載二の(1)ないし(3)の土地についてはその構成員である荻原進らが当時の所有者清宮力および田嶌なほから右土地使用の承諾を得た旨主張するけれども、この点についての債務者の疎明が十分でないのみならず、かりに債務者に右の使用権が存したとしても、そもそも債権者は右の使用権設定後にこれらの土地の所有権を取得し、かつその旨の所有権移転登記を経由した(右登記のなされていることは本件疎明資料により認められる。)第三者であるといえるから、債務者がこれに対し右の使用権を対抗しえないことは明らかである。従つてこの点に関する債務者の主張は採用することができない。

(四)  以上の事実によれば、債権者は本件土地の所有権に基ずき、債務者に対し本件各妨害物件を除去し本件土地を明渡すべき旨のいわゆる妨害排除請求権を有すると認められる。

三、(仮処分の必要性)

本件疎明資料によれば、現時の航空輸送に対する需要は急激に増大していること、これに対し現在いわゆる羽田空港の発着能力は量的に限界に達しており、現在新空港の使用開始は緊急不可欠の事態に至つていること、そのため債権者は所定の工事事業計画に基づき第一期工事区域については既に97.5パーセントの用地の確保を終え莫大な資金を投じて着々工事を進めている段階であるところ、債務者の本件不法占有により右地点の工事の進行は著しく阻害されていること、しかして本件土地は前記認定のとおり四千メートル滑走路予定地のほぼ北端に平行する誘導路用地であつて、この地点の誘導路工事は盛土工事と舗装工事に相当の期間を要するため本案訴訟の判決確定の日まで本件土地の明渡を受けられないとすれば、たとえこれに勝訴しても新空港につき昭和四七年初頭の供用開始は到底おぼつかない状態にあることは明白である。しかして債権者の事業の公共性、公益性からして右工事の実施が阻害され、延いては新空港の開港の遅延することは債権者にとつて著しい損害を生ずるものということができるから、これを避けるため債権者に本件土地についての妨害排除請求権を有する旨の仮の地位を定める必要があると認められる。

四、(結論)

よつて、債権者の本件仮処分申請を認容することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定すする。(渡辺桂二 鈴木禧八 安藤宗之)

第一物件目録

一、(1)成田市駒井野字広田一〇〇〇番

山林 六九四平方メートル(七畝)

(2) 同所     一〇〇一番

山林 五一二平方メートル(五畝〇五歩)

(3) 同所     一〇〇二番三

原野 一三八平方メートル(一畝一二歩)

のうち、添附図面(イ)(ロ)線上の木柵東側の部分

(4) 同所     九九三番

山林 四九九平方メートル(五畝〇一歩)

のうち、添附図面(ロ)(ハ)線上の木柵東側の部分

(5) 同所     九九四番

山林 四九九平方メートル(五畝〇一歩)

のうち、添附図面(ハ)(ニ)線上の木柵西側及び(ニ)(ホ)線上の本柵北側を除く部分

(6) 同所     九九七番

山林 四二九平方メートル(四畝一〇歩)

のうち、添附図面(ホ)(ヘ)線上の木柵北側を除く部分

(7) 同所     九九八番

山林 六七一平方メートル(六畝二三歩)

のうち、(ヘ)(ト)(チ)(リ)線上の木柵東北側を除く部分

二、(1) 成田市駒井野字広田一〇〇二番二

原野 二三一平方メートル(二畝一〇歩)

(2) 同所     一〇〇二番四

原野 九五平方メートル(二九歩)

(3) 同 字張ヶ沢一一三六番一

原野 五九平方メートル(一八歩)

第二物件目録

一、第一物件目録一、(1)地内所在の

テント張り仮小屋 二個(別紙図面(A)(B))

二、第一物件目録一、(1)(2)地内所在の

1 有刺鉄線張り木柵 延長約一五メートル(別紙図面(ワ)(カ)(ヨ)を結ぶ線)

2 穴の支柱等これを補強する物件

三、第一物件目録二、(1)地内所在の

1 トタン葺仮小屋  四個(別紙図面(C)(D)(F)(H))

2 わら葺仮小屋   一個(別紙図面(G))

3 テント張り仮小屋 一個(別紙図面(E))

4 穴の支柱等これを補強する物件

5 有刺鉄線張り木柵 延長約九五メートル(別紙図面(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ラ)を結ぶ線)

四、第一物件目録二、(1)及び一、(3)地内所在のトタン葺仮小屋    一個(別紙図面(I))

五、第一物件目録一、(2)乃至(7)地内所在の

1 有刺鉄線張り木柵 延長約一五〇メートル(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)……(ヌ)(ル)(ヲ)を結ぶ線)

2 穴の支柱等これを補強する物件

六、第一物件目録二、(2)地内所在の

1 トタン張り仮小屋 一個(別紙図面(J))

2 有刺鉄線張り木柵 延長約二五メートル(別紙図面(ム)(ウ)(キ)(ノ)(ヲ)(ク)を結ぶ線)

七、第一物件目録二、(3)地内所在の

1 櫓     一基(別紙図面(K))

2 トタン葺仮小屋  二個(別紙図面(L)(M))

3 わら葺仮小屋   一個(別紙図面(N))

4 有刺鉄線張り木柵 延長約三〇メートル(別紙図面(ヤ)(マ)(ケ)(フ)(コ)を結ぶ線)

5 穴の支柱等これを補強する物件

八、その他前記一〜七に附属する物件全部

妨害物除去仮処分申請書

債権者 新東京国際空港公団

代表者 今井栄文

訴訟代理人 浜本一夫

今井文雄

真智稔

債務者三里塚芝山連合空港反対同盟

代表者 戸村一作

債権者訴訟代理人

浜本一夫

今井文雄

真智稔

千葉地方裁判所佐倉支部御中

一、目的物の表示 別紙物件目録のとおり

一、目的物の価格 金、二〇、五一八円也

申請の趣旨

債務者は債権者に対し、別紙第一物件目録記載の土地上にある別紙第二物件目録記載の物件を除去し、同土地を仮に明渡せ。

債務者において、右除去を行なわないときは、債権者の委任した千葉地方裁判所執行官は適当な方法でこれを除去し同土地を明渡すことができる。

との裁判を求める。

申請の理由

一、当事者

(一) 債権者は、新東京国際空港公団法により設立された法人であり、新東京国際空港(以下新空港という)の設置及び管理を効率的に行なうこと等により、航空輸送の円滑化を図り、もつて航空の総合的な発達に資するとともに、わが国の国際的地位の向上に寄与することを目的とするものである(同法一条)。

(二) 債務者三里塚芝山連合空港反対同盟は、成田市三里塚、芝山町その他新空港予定地内外の住民の一部(約千名と称せられている)の者により、新空港の建設に絶対反対することを目的とし昭和四二年六月頃結成された団体であり、委員長として戸村一作、副委員長は現在二名で、瀬利誠、石橋政次が選出され、別に事務局が設けられ事務局長として北原鉱治が就任している。各部落毎に、一年交代の実行役員二名が選出され、随時、全部落の役員が集合し、連合実行役員会を開催して運動方針等の決定を行つている。反対同盟の構成員は同盟の決定に従い、空港建設の絶対反対を集団行動等により表明し、あるいは実力をもつて債権者の新空港の建設業務を妨害する等の行動を反復している。

以上のとおり、債務者は、委員長がこれを代表する、いわゆる権利能力のない社団と考えられる。

二、本件土地を債権者が取得した経緯

(一) 別紙第一物件目録一及び二記載の各土地(以下本件土地という)は、新空港第一期建設事業(四千メートル滑走路及びこれに対応する諸施設の建設工事)の区域内に所在し、目下工事中の右四千メートル滑走路のほぼ北端に設けられる着陸帯及び誘導路用地であり、昭和四四年一二月一六日土地収用法二〇条の規定により、建設大臣より事業認定を受け、次いで昭和四五年一二月二八日公共用地の取得に関する特別措置法(以下特措法という)七条の規定により同大臣より特定公共事業の認定を受けた起業地である。

(二) 本件土地のうち、別紙第一物件目録一、(1)の土地はもと野々宮太一の所有であつたが、昭和四三年八月二六日債権者においてこれを買受け、同四四年八月二二日引渡を受けたものであり、同目録一、(2)の土地はもと久津勝貞の所有であつたが、同四四年三月一九日同じく債権者においてこれを買受け、同年八月二〇日引渡を受けたものである(別紙図面赤斜線部分)。

(三) 本件土地のうち、別紙第一物件目録二、(1)久至(3)の土地は、もと清宮力及び田嶌なほ両名の共有地であつた(別紙図面⑯と表示した部分)。債権者は極力右両名から売買により任意取得するよう交渉を進めたが、同意が得られなかつたため、止むなく昭和四五年六月三〇日千葉県収用委員会に対し、同土地を土地収用法三九条及び四七条の三による権利取得及び明渡の各裁決の申立をなし、次いで昭和四六年二月三日特措法二〇条による緊急裁決の申立をなし、同委員会はこれを受理し審理中であつた。

債権者は、新空港用地の取得については、右のような収用手続中の土地についても、努めて任意の売買によりことを運びたい方針であるところ、本年三月中旬に至り、右両名より本件土地を売渡したい旨の申し入れを受け、その結果同月三〇日右土地を代金四七九、三九五円をもつて売買する旨の契約が成立し、同日債権者においてその所有権を取得した。

なお、これに伴い、前記収用委員会に対する裁決の申立は、同年四月二三日これを取り下げた。

三、債務者の不法占拠

(一) 本件土地のうち、別紙第一物件目録一、(1)(2)の土地は、雑木の生育していた傾斜地であつたが、昭和四六年三月二五日債権者においてその一部を堀り崩し平坦な土地とした(別紙図画中赤色部分)。

債務者は、昭和四六年四月一一日頃から、不法にも右平坦な部分に、別紙第二物件目録一記載の物件を設置し、同土地に対する債権者の占有を侵奪した。

(二) 本件土地のうち、別紙第一物件目録二、(1)乃至(3)の土地については債務者は、昭和四六年一月末頃から、何ら正当な権限がないにかかわらず、当時右土地の共有者であつた清宮力及び田嶌なほに無断で同土地上に別紙第二物件目録二記載の物件を設置し、同土地を不法に占拠している。

(三) 債務者が右のような物件を設置し、本件各土地を占拠した意図は、もつぱら新空港の建設に反対するため、債権者の工事実施を実力をもつて妨害しようとすることにあり、何ら経済的利用を目的とするものではない。

このことは、本件土地に隣接し、あるいは附近に点在する、既に昭和四五年一二月二六日千葉県収用委員会において、権利取得及び明渡の日をいづれも昭和四六年一月三一日とする権利取得裁決及び明渡裁決のなされた六件六筆の土地(別紙図面①乃至⑥と表示されている土地)上にも、債務者により本件土地同様類似の物件を同時期に、明渡義務(土地収用法一〇二条)に違反して設置し、同年二月二二日より開始された土地収用法一〇二条の二、第二項の規定に基づき千葉県知事の行つた代執行を実力により激しく妨害したことによつても明白である。

四、仮処分の必要性

(一) 新空港を緊急に建設しなければならない理由

わが国の民間航空輸送に対する需要は、経済の成長、国際交流の進展、航空機材の技術革新などを背景に、急速な伸長を続けており、また東京国際空港(羽田)は東京地区ばかりでなく、国内各地区及び国際交流の接点としての重要性は極めて高いものになつている。

しかしながら、同空港における航空機の発着処理能力は量的にはすでに限界に達しており、航空機が同空港上空に到達しても、混雑のため長時間着陸待機飛行をしなければならない状態及び離陸する場合も発進を遅らせなければならない状態が慢性化している。

同空港における航空機の発着回数は、航空需要の伸長とともに著しく増加し、昭和四四年度には約一五万二千回に達し、昭和四五年度には約一七万回、昭和四六年度には約一九万九千回になる見込である。一方同空港の航空機発着の処理能力は、昭和四四年、四五年度約一三万八千回、施設に相当の改善をほどこした昭和四六年度においてさえ、年間約一六万回程度である。このように同空港の航空機発着の処理能力は既に昭和四四年度においてその能力を超え、前記のような上空待機発進の遅延などの現象が現われ、昭和四五年度にはますますこの現象が著しくなつた。

このため運輸省当局は、昭和四五年八月二一日航空の安全性を確保する観点から、航空会社に対し滅便などの措置を要請する非常措置をとらざるを得なくなり、航空旅客の利便を阻害するところとなつている。

しかるに同空港は密集した市街地に接し、陸側への拡張は事実上不可能であり、また海側の埋立は、かなりの厚さのヘドロ層がある等技術的な難点があり、これを緊急に埋立てることは同じく不可能である。従て同空港の処理能力を早急に高めることはできない。

以上のような同空港の混雑状況を解消し、航空輸送のますます増大する需要を満たし、かつ航空輸送の安全性を確保し、また航空機の大型化高速化に対処するためには、新空港を建設することが必要である。殊に四千メートル滑走路及びこれに対応する諸施設を至急建設して遅くとも昭和四七年初頭には新空港の供用を開始することが緊急不可欠である。

そのため、債権者においては、所定の工事実施計画(昭和四二年一月二三日運輸大臣の認可を得ている)に基づき、第一期工事区域については既に97.5パーセントの用地の確保を終え莫大な資金を投じて着々工事を進めている。

(二) 本件土地の明渡しを緊急に受けなければならない理由

本件土地は、前記のとおり四千メートル滑走路予定地のほぼ北端に平行する誘導路用地を含み、谷地部(標高約四〇メートルの台地が浸食され樹枚状に入りくんだ幅約一〇〇メートル深さ約二〇メートルの湿地)の底面に接していた傾斜地である。

この地点の誘導路工事は、標高三八メートルまで盛上げ、その上に厚さ1.5メートルのアスフアルトコンクリートの舗装を施すことになつている。

誘導路は、その機能上厳しい平坦性を要求され谷地の盛立てに当つては、谷地底の沖積層につき、敷砂、砂杭工による地盤改良工事を施した後、一層厚さ二五センチメートルごとに入念に敷き均らし、転圧をしながら盛り立て、さらに施工計画高より二メートル称の余盛りをなし、その載荷により地盤を固める措置をとることにしている。これらの工事のうち敷砂、砂杭工による地盤改良工事は、昭和四五年一一月に着手し、昭和四六年一月に終了し、二月より盛土工事に着手した。しかし、本件土地に対する債務者の前記不法占拠によりほとんど進捗はみられない状態にある。

この盛土工事を今後施工する場合は、天候条件を考慮すれば余盛載荷期間を含めて最小限度七か月を要する。

右に加えて、盛り立て後施行する舗装は、五層の材料からなる総圧1.5メートルのアスフアルト・コンクリート構造で、各層とも、さらに何層かに分けて入念に敷き均らし、転圧しこれと同時に埋込み式航空燈火を設置するものであり、過去の実績からみて最小限度一か月半を要する。

このように、盛土工と舗装工だけで今後最小限合計八か月半を要し、もはや一刻の猶予もなく、本件土地の所在する谷地の盛土工事に入らなければ、昭和四七月初頭の供用開始はおぼつかない。

しかるに、右谷地部の本件土地以外の土地は、任意買収又は土地収用手続による取得等により、すべて債権者の管理下に置かれているにかかわらず、本件土地のみは債務者による前記不法占拠が続けられているため、右谷地の盛土工事の施行が阻害されている。

(三) 著しい損害の発生

以上のとおり、本件土地の明渡しが遅延する場合には、谷地部の着陸帯、誘導路の工事が遅れ、これが完成しない以上は新空港の供用開始は不能である。

従て、既に莫大な資金を投下し建設を進めている新空港において、本件土地の明渡しが遅延することは、工事全体の遅延を招き、直接の著しい、かつ回復し難い経済的損失を生ずるものである。のみならず、東京地区の急増しつつある航空輸送の需要にもさしあたり応ずることができなくなり、その結果わが国の社会的経済的損失は、はかり知れないものがあり、引いてはわが国の国際的地位、信用にも悪影響を及ぼすことは顕著である。

第一物件目録

一、(1) 成田市駒井野字広田一〇〇〇番

山林 六九四平方メートル(七畝)

(2) 成田市駒井野字広田一〇〇一番

山林 五一二平方メートル(五畝〇五歩)

二、(1) 成田市駒井野字広田一〇〇二番二

原野 二三一平方メートル(二畝一〇歩)

(2) 成田市駒井野字広田一〇〇二番四

原野 九五平方メートル(二九歩)

(3) 成田市駒井野字張ケ沢一一三六番一

原野 五九平方メートル(一八歩)

第二物件目録

一、第一物件目録一、(1)、(2)地上所在の

(1) テント張り仮小屋 二個

(2) その他右に附属する物件

(3) 有刺鉄線張り木柵 延長約一五メートル

第一物件目録二、(1)〜(3)地上所在の

(1) わら葺仮小屋    二個

(2) トタン葺仮小屋   七個

(3) テント張り仮小屋  一個

(4) その他右仮小屋に附属する物件

(5) トタン葺便所    一個

(6) 櫓         一基

(7) 木柵        延長約一五〇メートル

仮処分申請拡張申立書

債権者 新東京国際空港公団

債務者 三里塚芝山連合空港反対同盟

昭和四六年五月一五日

債権者訴訟代理人

浜本一夫

今井文雄

真智稔

千葉地方裁判所御中

一、目的物の表示 別紙物件目録のとおり

一、目的物の価格 金五二、四一八円也

申請の趣旨

債務者は債権者に対し、別紙第一物件目録記載の土地内にある別紙第二物件目録記載の物件を除去し、同土地を仮に明渡せ。

債務者において、右除去を行なわないときは、債権者の委任した千葉地方裁判所執行官は適当な方法でこれを除去し、同土地を明渡すことができる。

との裁判を求める。

申請拡張の理由

一 別紙第一物件目録一、(1)(2)及び二の土地は、昭和四六年五月六日付け仮処分申請(貴庁昭和四六年(ヨ)第一〇九号事件)に係る土地であり、同目録一、(3)乃至(7)の土地は、これに隣接する土地で、既に早く債権者が新東京国際空港用地として元の所有者から任意買収により取得し、自ら管理する土地である。

二 然るに、債務者は、前記仮処分申請以後においてさらに成田市駒井野字広田一〇〇二番二(別紙第一物件目録二、(1))の土地の西に隣接する同所一〇〇二番三(同目録一、(3))、同所北に隣接する同所九九三番(同目録一、(4))、同所九九四番(同目録一、(5))、同所九九七番(同目録一、(6))、同所一〇〇一番(同目録一、(2))、同所九九八番(同目録一、(7))の各土地を囲繞して有刺鉄線張りの木柵約一五〇メートルを設置して、当初債権者が仮処分を申請した地域に数倍する債権者の所有地を不法に侵奪するに至つた(別紙図面参照)。

三 よつて債権者は、あらたに、債務者から侵奪を受けた土地についても、前記仮処分申請と同様の理由により申請の趣旨記載のような仮処分を求めるため、本申立に及んだものである。

第一物件目録

一、(1) 成田市駒井野字広田一〇〇〇番

山林 六九四平方メートル(七畝)

(2) 同所 一〇〇一番

山林 五一二平方メートル(五畝〇五歩)

(3) 同所 一〇〇二番三

原野 一三八平方メートル(一畝一二歩)

のうち、添附図面(イ)(ロ)線上の木柵東側の部分

(4) 同所 九九三番

山林 四九九平方メートル(五畝〇一歩)

のうち、添附図面(ロ)(ハ)線上の木柵東側の部分

(5) 同所 九九四番

山林 四九九平方メートル(五畝〇一歩)

のうち、添附図面(ハ)(ニ)線上の木柵西側及び(ニ)(ホ)線上の木柵北側を除く部分

(6) 同所 九九七番

山林 四二九平方メートル(四畝一〇歩)

のうち、添附図面線上の木柵北側を除く部分

(7) 同所 九九八番

山林 六七一平方メートル(六畝二三歩)

のうち、(ヘ)(ト)(チ)(リ)線上の木柵東北側を除く部分

二、(1) 成田市駒井野字広田一〇〇二番二

原野 二三一平方メートル(二畝一〇歩)

(2) 同所 一〇〇二番四

原野 九五平方メートル(二九歩)

(3) 同 字張ケ沢一一三六番一

原野 五九平方メートル(一八歩)

第二物件目録

一、第一物件目録一、(1)、(2)地内所在の

(1) テント張り仮小屋 二個

(2) 穴の支柱等これを補強する物件

(3) 有刺鉄線張り木柵 延長約一五メートル

(4) その他右(1)〜(3)に附属する物件全部

二、第一物件目録二、(1)〜(3)地内所在の

(1) わら葺仮小屋   二個

(2) トタン葺仮小屋  七個

(3) テント張り仮小屋 一個

(4) 穴の支柱等これを補強する物件

(5) 櫓    一基

(6) 木柵 延長約一五〇メートル

(7) その他右(1)〜(6)に附属する物件全部

三、第一物件目録一、(3)、同二、(1)地内所在の

(1) トタン葺仮小屋 一個

(2) その他右に附属する物件全部

四、第一物件目録一、(2)〜(7)地内所在の

(1) 有刺鉄線張りの木柵延長約一五〇メートル

(2) 穴の支柱等これを補強する物件

(3) その他右(1)、(2)に附属する物件全部

債権者 新東京国際空港公団

債務者 三里塚・芝山連合空港反対同盟

答弁書

昭和四六年五月一五日

債務者代理人 小長井良浩

外八名

千葉地方裁判所御中

第一、実体審理前の抗弁

一、当事者適格の欠如

(1) 総説

当事者適格については、左のとおり概念づけられている。

「訴訟物についての利害関係人として、その存否を確定する判決を受ける適格を当事者適格と呼ぶ」(兼子)民事訴訟法体系一五八頁)「当事者適格は誰と誰を対立させ審理判決することが訴訟物たる権利又は法律関係をめぐる紛争を解決するのに必要かつ有意義であるかという観点から即ち当事者と訴訟物との具体的・個別的な関係から)決せられる問題であつて、当事者能力のように当事者の形式的地位の関連で抽象的且つ一義的に定まる問題ではない。」)三ケ月章・民事訴訟法一八四頁)

したがつて、当事者適格は、訴訟法的な問題であるとともに、実体的関係に規定されているものである。

それ故当事者適格は、訴訟の形態によつて異なるものであつて、また当事者能力と当事者適格とは厳然と区別されなければならない。

したがつて、三里塚・芝山連合空港反対同盟が権利能力なき社団として、当事者能力を有するとしても、そのことは決して本件仮処分事件の当事者適格を有することを意味しないことは、明らかである。

ところが債権者は、反対同盟が当事者能力を有することと当事者適格の問題とを混同して、本件仮処分事件において正当な当事者でない反対同盟を債務者とした違法を犯したものである。

よつて「権利保護の利益も訴訟要件(本案判決要件)の一種であると見る以上、当事者適格の存在もこれとならんで訴訟要件の一をなすとみるべきことになる。(それを欠くときは訴却下の訴訟判決をすべきことになる。この点では現在の学説は殆ど一致している)」(三ケ月前掲書一八四頁)

(2) 妨害物除去仮処分事件の当事者適格

債権者は、本件申請の理由第三項(一)において、別紙第一物件目録第一記載の物件を設置されることによつて、「不法占拠」されていると主張する。ここで「不法」とは、一種の法的判断であるからしばらくおくとして、債権者は、少くとも「占拠」の事実を認めていることは明らかである。

同じく第三項(二)において、別紙第一物件目録二、(1)乃至(3)の土地については、別紙第二物件目録二記載の物件が設置され、「占拠」されている事実を、債権者は認めている。

(債権者の主張する物件の所在場所については、著しく特定を欠くものであることは後述のとおりである)

およそ妨害物の除去を求める仮処分事件においては、物件を現実に占有する者のみが債務者適格を有することは事理の当然である。

而して本件申請書別紙第二物件目録記載の小屋、櫓、木柵、便所その他の物件は、いずれも各地点毎に一乃至二部落に居住する特定の農民が主となつて建設、管理、占有しているものである。

しかるに物件の現実の占有者を捨象して、なした本件仮処分申請は、正当な債務者を欠落してなされたものであつて訴訟要件を欠くことは、明らかである。

よつて、本件仮処分申請は、却下されなければならない。

二、仮処分対象土地のとり違え及び特定性の欠如

債権者は、申請の理由三、(一)において、「別紙第一物件目録一、(1)(2)の土地は、雑木の生育していた傾斜地であつたが、昭和四六年三月二五日債権者においてその一部を堀り崩し平坦な土地とした(別紙図面中赤色部分)」と主張する。

しかしながら、債権者の堀り崩したと主張する土地が右目録一、(1)(2)の土地であるとの主張は事実に反する。

債権者は、三月二四日夜、石井英祐外一四名を債権者として千葉地方裁判所に提起した。いわゆる第一乃至第六地点(第五地点を除く)に対する占有妨害禁止の仮処分申請がなされているのを知悉し、しかも右事件の審尋が三月二五日に行なわれることを裁判所から通知された。にもかかわらず同日、第一、第三、第四、第六各地点の地下壕を占有する農民の、身体に危害を加え、生命をおびやかしつつ、右地下壕を破壊した。

その際、成田市駒井野字広田九四一番地五所在の地下壕については、その出入口付近を破壊したにとどまつた。

債権者が堀り崩したのは、右九四一番五に所在する地下壕の一部及び、同所に隣接する傾斜地である同所九五八番の山林の一部に外ならない。

したがつて、債権者が仮処分対象地を広田一〇〇〇番および広田一〇〇一番となしたのは、仮処分対象地を明白にとり違えた違法を犯したものである。

また、別紙第一物件目録二、(1)乃至(3)の土地についても、債権者による明渡を求める土地の区画の特定が不明確であり、債務者の防禦、及び万一、債権者が勝訴した場合の執行上からもきわめて不充分であり、対象物件の特定性を欠き、したがつて、不適法却下さるべきである。

第二、申請の越旨に対する答弁

債権者の請求は、いずれも却下するとの裁判を求める。

第三、申請の理由に対する認否および反論

一、申請の理由一、に対して

(1) 申請の理由一、(一)記載の事実はこれを認める。

(2) 同一、(二)記載中第一行目「債務者三里塚・芝山連合空港反対同盟は」以下次頁三行目「決定を行なつている。」までの部分は、「昭和四二年六月頃結成された」との部分を除き、これを認める。

反対同盟がいわゆる権利能力のない社団であることは認める。

その余の事実は否認する。

反対同盟傘下の農民、老人、婦人、青年、少年は、自らの主体的な自由な意思に基き行動しているものであつて、同盟は、これに方向を指し示しているものである。

また債権者の新空港建設事業こそ、農民から土地を収奪し、反対派の農民少年に傷害を加えるなど、農民、市民の生活を破壊するものである。

二、申請の理由第二項に対して

(1) (一)記載の事実に対して認める。但し、事業認定処分及び特定公共事業の認定処分については、取消訴訟を提起して、徹底的に係争中である。

(2) (二)、(三)記載の事実は、不知。

三、申請の理由第三項に対して

(1) (一)記載に対して

否認する。

債権者が堀り崩したのは、駒井野字広田九四一番五および、同所九五八番の一部であつて、反対同盟傘下の農民らは、債権者によつて、一旦不法に侵奪されようとした占有を守り抜き、占有を継続しているものであつて、農民らの占有を侵奪せんとしたのは、まさしく債権者である。

(2) (二)記載に対して

否認する。

別紙第一物件目録二、(1)乃至(3)の土地上の物件は、いずれも清宮力および田嶌なほの明示もしくは、黙示の承諾の上に設置したものであつて、その占有は、正当な権原に基づくものである。

(3) (三)記載に対して

否認する。

債権者は、「債務者が右のような物件を設置し、本件各土地を占拠した意図は、もつぱら新空港の建設に反対するため、債権者の工事実施を実力をもつて妨害しようとすることにあり、何ら経済的利用を目的とするものではない。」と主張するが、まことに事実を歪曲した、悪意に満ちた主張というべきである。

債権者は、新空港の建設反対と経済的利用とを切断して論じているが右は、まことに農民の立場を無視した論というべきである。

反対同盟傘下の農民が地下壕を堀り、小屋、農民放送塔(櫓)、木柵を建設した行動は、新空港建設反対運動の一環として行なつたことはもとよりであるが、右行動は、自らの生活、農地を守る、まことにギリギリの生活と直結した行動なのである。

地下壕を堀り、小屋等を建設する行動は、債権者の曲解する如き実力斗争を展開することを意図するものではなく、農民にとつては自己の身体の一部ともいうべき土地を手段として、あるいは自らの身体を手段として、いわゆる無抵抗の抵抗を敢行したものである。右行動は、農民の生命を断ち、騒音をまき散らす上に、軍事空港としても用いられようとする成田空港反対のギリギリの生活に根ざした思想の表現であり、生命の叫びである。

四千米滑走路が農民の必死の叫びを無視して建設された場合には、三里塚、天神峰、東峰、木の根等の地区のみならず芝山地区の農民は、騒音、大気汚染、大気中への排油による作物類の汚染、用排水、洪水問題、排油による水田等の汚染問題、生理的打撃、酪農経営に対する決定的打撃等によつて、農業経営を徹底的に破壊せしめられ、年間八億円の売上を計上した丸朝農協等が危殆に瀕するなど、農民としての生命を断たれることは、明白である。

したがつて、現段階で、現実に土地を占有する農民が行つている如き無抵抗の抵抗が行なわれることは、農民としての生活を今後維持するためには、絶対不可欠の行動であり、自らの生存権、経済的、身体的権利を守る行動とこれほど密接な因果関係を有する行動はないのである。

また、債権者は、債務者が代執行を実力により激しく妨害した旨を主張するが、およそ非道な権力行使に対して抗議することは、人民の義務でさえあるが、債権者の主張は、まことに顧みて他をいう類の論である。

代執行および、その後の三月八日、二五日に債権者職員、債権者の雇い入れた下請業者、ガードマンおよびこれと意思を通じた機動隊の非道残虐は、実に筆舌に尽し難いものがある。二月二四日にガードマンが驚棒をふるつて少年行動隊の少年十数名を負傷させしめた事実、二五日、三月三日、五日の大量逮捕、三月五日、六日の各地点における典型的直接強制というべき違法な代執行による農民に対する傷害事件、とくに三月六日における第三、第五地点で農民ごと立木を伐採するという蛮行による重傷者の続出、三月八日、二五日の何ら法的根拠を有しない、危険極りない地下壕破壊五月二日深夜から三日未明にかけての団結小屋へ火焔ビンを投げ四二名に負傷させるなどのガードマンの襲撃、機動隊の第二地点の襲撃等この間の債権者らの行動は、犯罪行為を反復したものというべきである。

かかる行動に及び、しかも仮処分審尋中に地下壕破壊を強行した債権者が、司法的救済を求めることは、まことにクリーン・ハンドの原則に反するものというべきである。

四、申請の理由第四項に対して

(一)、(二)、(三)各項記載の事実は、いずれも

否認する。

債権者は、新空港を緊急に建設しなければならない理由を主張するが、右主張をもつて成田新空港の建設を強行する理由となすことは、誤りである。

昭和四五年二月二八日付朝日新聞一面記事によれば、在日米軍司令部(ゴードン・M・グラハム司令官)は日本政府に対し、「在日米軍の実戦兵力は岩国など一部の部隊を除いて七一年会計年度末(本年六月末)までに全面的に引揚げる」と通告をなし、右引揚計画の一部には、横田基地(東京)のフアントム機連隊(三飛行隊五四機)と偵察機中隊は米国に引揚げる、厚木基地の海軍偵察機はすべて引揚げ、同基地は修理施設だけを残すことにする等が含まれている。

このように横田基地、厚木基地は、返還される具体的見通しができ、しかも厚木基地は、羽田国際空港の1.6倍の面積を有するものであつて、その他の米軍基地の返還を行なうことなしに、徒らに農民なら農地を収奪せんとしている事態は、まことに政府、公団の怠慢というべきであり、(一)記載の主張は、理由がない。

(2) 第四項(二)に対して

債権者は、もつぱら工事の進行状況のみに関心を有するのみであつて、遮二無二工事計画を進行せしめることをもつて事足れりとしていることは、(二)項記載の主張によつて明らかである。

債権者のかかる農民無視、工事第一主義の態度は、公団発足当初から一貫しているものであり、かかる態度は三里塚空港の突然の決定以後全く改められず今日にいたつているものであつて債権者自らが事態をこじらせて来た責を負うべきものである。

農民の死活を賭けた叫びに耳をかすことなく、工事の進行のみを強調してはばからず、内陸部の農地を潰奪して空港を作ることが世界の大勢に逆行するものであることに思い至らず、ひたすら農民を窮地に陥入れることによつて乗切ろうとする債権者の態度が事態解決を阻む最大原因である。

(3) 第四項(三)に対して

債権者は、本件土地の明渡しが遅延する場合には東京地区の輸送の需要に応ずることができなくなると主張するが、政府、公団は、例えば羽田空港の1.6倍の面積を有し、三千米滑走路の建設可能な厚木飛行場あるいは横田基地の民間空港化を怠つている一方でかかる主張をなし、あまつさえ、厚木飛行場を憲法違反の自衛隊に使用させようとしていることは、まことに言語同断というべきであり、著しい損害の発生はとうてい認められない。

著しい損害の発生はむしろ、新空港起業地内および周辺農民、住民に建設の強行によつて確実に予測されるものである。

五、債権者の申請の理由なし

以上の如く、債権者の本件申請は、全く理由のないものである。

第四、占有権に関する債務者の主張

一、農民による占有の継続

反対同盟傘下の農民は、各部落単位に行動することをもつて通例としている。

農民らの構築した小屋、木柵、農民放送塔、(櫓)、地下壕は、原則として各部落それぞれ創意をもつて設置されたもので、各物件につきそれぞれ、共有者を定め、管理して占有を継続しているものであつて、反対同盟なる社団の占有であるとする債権者の主張は、事実に反するものである。

各地点物件、地下壕の占有、所有関係は以下のとおりである。

二、各地点物件、地下壕の占有、所有関係

(1) 広田九四一番五および九五八番の土地上の物件について

芝山町大字菱田のうち中谷津部落を中心とする農民は、昭和四六年一月六日以降、成田市駒井野字広田九四一番五および同所九五八番の土地に地下壕を構築し、占有を継続し、千葉県知事による代執行経過後も右地下壕の占有を継続した。右地下壕占有者は、石井英祐、大木敏男、小川喜重以下相当数にのぼるものである。

しかるに、三月二五日に、債権者は、法的根拠を全く示し得ぬままに、右同所に構築された地下壕をユンボという建設機械を用いて、暴力をもつて右三名をはじめとする農民の占有を侵奪せんとした。

しかしながら農民は右地下壕に立籠り、右暴挙に抗議し、債権者は、日没後地下壕破壊作業を中止し、現在にいたつている。

そこで農民らは継続している占有権に基づき、九四一番五および九五八番の土地にまたがつて、三月二六日以後三棟の小屋等の物件を設置したものである。

右三棟の建物は、いずれも石井英祐、大木敏男、小川喜重の共有にかかるものであり、右三名が管理、占有するものである。

(2) 広田一〇〇二番一外の土地上の物件について

前記(1)と同様、笹川留吉、萩原勇一、秋葉清治その他芝山町香山新田のうち横堀部落を中心とする農民および反対同盟青年行動隊に属する青年農民らは、同所および一〇〇〇番の土地に地下壕を構築し、昭和四六年一月以降右土地を占有し、同月以降一〇〇二番一の土地に三棟の建物を設置している。

右三棟の小屋、木柵等は、いずれも笹川留吉、秋葉勇一、秋葉清二の共有、管理にかかるものである。

(3) 一〇〇二番の二の土地上の物件について

同所には三棟の小屋が存在するが右地点については、熱田一、尾野良雄、前田勝夫その他辺田、および宿(シク)部落か中心となつて、昭和四六年一月以降設置したもので、いずれも右三名の共有、管理にかかわるものである。

(4) 一〇〇二番四および一一三六番一の土地上の物件について

萩原進、石井新二、秋葉憲一その他の反対同盟青年行動隊員は、昭和四六年一月以降右両地にまたがる農民放送塔(櫓)および一一三六番一の土地上の小屋三棟ならびに一〇〇二番四の土地上の便所一棟を構築し、右三名がいずれもこれを共有し、管理しているものである。

(5) 占有の正当性

前記(1)乃至(4)記載の事実によつて明らかな如く、農民が前記土地を占有していることは、広く社会的に認められているものであつて、農民はいずれも「自己ノ為メニスル意思」をもつて「所持」しているものであり、本件土地を正当に占有していることは明らかである。

よつて債権者が不法占拠と主張することは、全く事実に反するものである。

三、申請外清宮力外一名の承諾に基づく占有

債権者は、申請の理由第三項(二)において、反対同盟は、清宮力および田嶌なほに無断で第二物件目録第二記載の物件を設置したと主張する。

しかし、右主張は、事実に反するものであつて、萩原進らは、右両名の承諾を得て物件を設置したものであり、少くとも右両名は、農民放送塔その他の物件が右両名の所有地に設置されていることは、全国的な報道の中で知つていたことは明らかであり、農民の右の土地使用について黙示の承諾を与えたものであつて、債権者の主張は理由がない。

第五、申立事項

一、口頭弁論による審理の申し入れ

債務者は、以上の理由によつて、本件仮処分申請は却下されるべきものと思料するが、債務者の詳細な主張は、御庁におかれて、口頭弁論を開かれた上で、なす所存である。

本件は、事案の重大性、断行的な仮処分である点、訴訟要件に問題があること等に鑑み、口頭弁論を開かるべきである。

右再度申し入れるものである。

二、現場検証の申し入れ

御庁におかれては、仮処分対象土地の特定性の問題、物件存在状況、各物件の占有、管理状況につき、検証されたくここに申し入れるものである。

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